♪月刊・魔法の藤本陽一

2023年4月1日(土)
【4月のお題・獄門ノススメ】
昔むかし、あるところに、一人の音楽家の男がおりました。

男は、自分を天才だと信じ、分かってくれない世間に対し「世間がバカなんだ、変わらないといけないのは世間のほうだ」と常々申しておりました。

メジャーレーベルのオーディションなどに応募した回数は100回とも200回とも言われ、しかしどれも空振りでございました。ある時など「年齢、国籍、性別、容姿不問」のオーディションに年齢、国籍、性別も書かず、写真も付けずCDだけを送ったこともあったと言われておりました。

そんなある時、ある楽器店主催のオーディションで少しだけ好感触の返事をもらい浮かれていたものの、架かってくる電話には出ず、留守電に何か入っていても折り返しをしなかった、という摩訶不思議な逸話もあったのでごさいます。

とにかく自分を天才と信じ、そこまではまあ許容範囲でございましたが、自分以外はみんなクズだとさえ思っていたのでございます。

それを知った天上界の神様は、「まぁ少し痛い目に遭えば考えを改めるだろう」と思われ、男の言動をしばし見守ることとされました。

しかし、いつまで経っても男は自分だけが天才だと思い、何故世間が振り向かないのか、ということに不満を持つばかりであったと言われております。

いつか真実に辿り着く、いや、事実を突きつけられ目を覚ますであろうと見守って来られた天上界の神様も痺れをお切らしになり、悲しみながらも男が自らを省みることを期待され、「そなたの下に人はおらず、またそなたの上にも人はおらぬ」と呟かれ、男を地獄の底へ突き落とされたのでございます。

その地獄では獄門が待っておりました。

門番が「思い上がりも甚だしいぞ、貴様!」「これから貴様の馘を切り落としてくれるわい」などど大声で叫んだのでございます。

そして、大きな斧が男の頭上から振り下ろされたその時、「ギャー」という大声とともに男は目覚めたのでございます。

「あぁ、悪い夢を見た…夢でよかった…ほっとした…」
「さて、今日も曲作りに励むか!」

男はそんなことを思いながらギターを持ってどこかへ出かけて行った、と言われております。

その後、男の行方を知るものは誰もいないのでございます。


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