国際規準（通称：ＷＨＯコード）とは、母乳代用品（人工乳）、ほ乳瓶や人工乳首などの調乳用品に関する宣伝、過剰な販売促進活動を禁じ、母乳育児を守り、推進するためのにWHO（世界保健機構）とユニセフによって作られた規準です。
国際規準は、「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」の通称で、略して「国際規準」（ＷＨＯコード）とも呼ばれます。
この規準が作られた背景には、日本人には実感しにくい、しかし、本当に起きていた悲劇があります。
国際規準がつくられた背景
1960年代、出生率の低下から先進国の乳業メーカーが発展途上国を消費地とすべく、行き過ぎた販売活動を行いました。過剰な広告をして、産院には膨大なサンプルを渡し、専門家達には贈り物をして旅券や学会を世話しました。
産院ではミルクが過剰に使われ、人工栄養の赤ちゃんがどんどん増えました。母乳は、赤ちゃんが母親の乳首を直接吸う刺激によって作られます。粉ミルクを使いすぎると、母親の体に「母乳を作れ」という指令を送ることができないのです。
この人工的な母乳不足は、清潔な水や消毒設備が得にくい国々では、たいへんな結果を招きました。細菌が繁殖したミルクを飲むことになったばかりか、粉ミルクを買い続けられる経済力がなく、薄く溶いたミルクを飲ませる人もたくさんいました。このため、下痢や栄養不足で、たくさんの赤ちゃんが命を失ったのです。
これに対し、欧米の市民活動家や小児栄養の専門家たちは、抗議を始めました。中でも、シェアの半分を占めていたネスレ（日本ではネスカフェ・キットカットなどが有名）に対するボイコット運動は大規模で、1977年に米国で始まり、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、英国、スウェーデン、西独に広がり、一次だけで7年間も続き、その後も繰り返されました。国際規準は、こうした抗議行動の成果として、企業が営利本位に暴走することから赤ちゃんを守るために作られました。
粉ミルクが悪いと言っているのではなく、営利本位なマーケティングが引き起こす悪影響が問題なのです。
日本と国際規準
国際規準が1981年に世界保健総会で採択されてから、赤ちゃんを守るために多くの国がこの基準をもとに母乳代用品の販売規制を法令化していますが、日本ではまだ法令化されておらず、ほとんど守られていないのが現状です。
国際規準では、テレビや雑誌による母乳代用品（粉ミルクだけではなく、ほ乳瓶や乳首などの調乳用品、それから離乳食も含まれます。）の広告も、それらの無料サンプル配布も禁止しています。メーカーが優待価格で医療機関に販売することも、医療従事者が母親へ製品を渡すこともいけないとされています。
決して粉ミルクは悪いものだと言っている訳ではなく、自由選択を妨げるものではないので、お店の棚に粉ミルクが置いてあるのは違反ではありません。しかし、製品のそばに母親向けの宣伝パンフレットがあったり、缶に赤ちゃんの絵や写真があったり、「母乳と同じ」と書いてあったりすると違反になりますす。
かわいい赤ちゃんの写真は日本ではあまりにも多用されていますが、「この製品で育てれば、こんなにかわいい元気そうな子になりますよ」というメッセージを潜在意識に植えつける恐れがあるために、規制されています。
現在の日本で母乳だけで育てている人の割合が少ないことと、日本の乳業会社が国際規準を守っていないことは、決して無関係ではありません。
＜＜重要なお知らせ＞＞
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規準の主な内容（全文ではありません）
(1)消費者一般に対して、母乳代用品の宣伝・広告をしてはいけない。
(2) 母親に試供品を渡してはならない。
(3) 保健施設や医療機関を通じて製品を売り込んではならない。これには人工乳の無料提供、もしくは低価格での販売も含まれる。
(4) 企業はセールス員を通じて母親に直接売り込んではならない。
(5) 保健医療従事者に贈り物をしたり個人的に試供品を提供したりしてはならない。保健医療従事者は、母親に決して製品を手渡してはならない。
(6) 赤ちゃんの絵や写真を含めて、製品のラベル（表示）には人工栄養法を理想化するような言葉、あるいは絵や写真を使用してはならない。
(7) 保健医療従事者への情報は科学的で事実に基づいたものであるべきである。
(8) 人工栄養法に関する情報を提供するときは、必ず母乳育児の利点を説明し、人工栄養法のマイナス面、有害性を説明しなければならない。
(9) 乳児用食品として不適切な製品、例えば加糖練乳を乳児用として販売促進してはならない。
(10) 母乳代用品の製造業者や流通業者は、その国が「国際規準」の国内法制を整備していないとしても、「国際規準」を遵守した行動をとるべきである。
『乳児の健康を守るために：WHO「国際規準」実践ガイドブック 保健医療従事者のための「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」入門』
母乳育児支援ネットワーク訳、日本ラクテーション・コンサルタント協会発行、2007年（p.12)より転載。
(Protecting infant Health: A Health Worker’s Guide to the International Code of Marketing of Breastmilk Substitute, 10th ed.翻訳）
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