SS置き場
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黒い笹弥子
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 午前零時、セーターを脱ぎ捨て、リボンを外した。これから取引先へと向かう。女子高生探偵・桂木弥子のトレードマークである制服を脱ぎ捨て、身に纏うのは黒のライダースジャケット。

 探偵を始めて1、2ヶ月経つ頃だっただろうか。新しいビジネスとして、裏で極秘に麻薬を取り扱い始めたのは。一時、望月の会社に似たような設定を用意され、それを世間にバラ撒かれそうになったりもしたが、結局はいつも行動を共にする魔人に助けられ、事実が一般に広まる事態は免れた。尤も、事実が公表され探偵の名に傷が付いた時、真に困るのは助手である彼なので、こういった際にはいくらでも骨を折ってくれる。
 そして今日も彼女は、探偵業と麻薬の密売を続けているのだ。副業である真夜中の商売を始めた時から、大きなアタッシュケースを持ち、お決まりの装束で深夜にこっそりと家を抜け出すのが少女の日課になっていた。
 但し、今日の彼女は手ぶらだ。
 今夜は、最近始めた三つ目の仕事のお得意様に会うことになっている。取引先の彼もまた、昼夜それぞれ違う顔の持ち主だ。
 しかも、昼も夜も彼女の一番近いところに、彼は居る。
 夜はこういった風に、商売相手として。昼は――

「お待たせ、笹塚さん。またお仕事長引いちゃったみたいでご苦労様」
「いや…悪いな、弥子ちゃんこそ、いつもこんな時間に呼び出して」
 全身に漆黒を纏い、含みのある笑みを浮かべる男は、笹塚衛士。彼女がいつも事件現場で会う刑事だった。
「で…、笹塚さん、今日もクスリは買ってくれないんだ」
「ああ…何度も言うけど、俺はヤクはやらねーよ。代わりに、ほら」
そう言って彼は、少女に数枚の一万円札を手渡した。
「…毎度」
馴れた様子で紙幣の枚数を数え、懐にしまい込む彼女も、口角を上げてニヤリと笑う。
「今日はそこに停めてある俺の車でいい?窮屈で悪いけど、人気もねーし、近場にホテルも無いみたいだから」
「お金もらってる以上、文句は言わないよ。じゃ、いつも通り…好きに、して」
 ドアを引き、後部座席に仰向けになった彼女は、背を丸めて自分の上に覆い被さる男の首の後ろに、ゆっくりと手を回した。
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